- 動き続ける空間を読むーエスノグラフィーと状況論ー
- 日本の学校教育への違和感ー言語ゲーム論との出会いー
- 状況論との遭遇 ー共同研究者 上野直樹氏との出会いー
- フィールドワークの視点ー冷蔵倉庫の空間を読むー
- フィールドへの溶け込み方ー工場から実験室までー
- 分析のプロセスー状況論とは普通の見方ー
- 論文にまとめるタイミング ー動いたことは書く!ー
- フィールドの見つけ方 ー「社会システムとしてのコピー機」ー
- 今後の研究テーマ ーエージェンシーと社会・技術的アレンジメントー
- 「ハイブリッド状況論」について ー変化し続ける空間を理解するー
(長いフィールドワークの場合)3つくらい論文を書くこともあります。通っているうちに視点も興味も変わってきますしね。
ー論文はフィールドワークが終わって一気に書き上げるというよりは、まずは何が行われているかというところを理解されるところから、『ここがおもしろいな』っていう、いくつかの視点をお持ちになってインタビューを重ねたりしながら書いていくんですね。
川床靖子氏(以下敬称略):そうですね。いろいろな(学会発表や紀要原稿など)締め切りに合わせてね。
ー先生の本では、現場のやり取りがすごくイキイキと書かれているので、まるでその場に自分がいるような感じがします。『どうやって記録をされているのかな?』ってすごく不思議に思っていたんですが。
川床:現場ではそんなに記録しないんですよ。ビデオを回しておきますが。
ー見返したりしますか?
川床:もちろんしますね。見返しはするんですけど。それでも一字一句記録することはないですね。
ー膨大な量ですもんね。
川床:そんなのは、とても…いやになっちゃうので(笑)。ただし、フィールドから帰ったら、その日のうちに気付いたことをメモするようにしています。それがやっぱり一番材料になるかな。
ーまさに、フィールドノートですよね。
川床:フィールドノートっていっても本当に簡単な箇条書きだけですけどね。それをやっておくと、ビデオをそんなに見返したりしなくても何とかなります。それに、まとめておかないと、次の日の質問が出てこない。睡魔と闘いながら、次の日のインタビューのためにそれだけはするって感じです。
ーそういうやり方っていうのは誰かに習ったりしたんですか? それとも、実際にやりながらそういう方法を見つけていったんですか?
川床:やりながらですね。とにかく現場に行けば、2日とか3日とか続けてインタビューするので『種切れになっちゃうと申し訳ない』と思ったり。それから、せっかく遠くから来たのだから、収穫を上げたいと、こちらとしても貪欲になりますよね。
ー遠くといっても諏訪からタンザニアまで、幅広いですね。(笑)。
川床:何か問題を見つけていくみたいなときにも、蓄積がないと見つからないですよね。だからメモをとるくらいはしていますが、あとは見返しはほとんどしないですね。ビデオは一生懸命撮るのですが。
ーでも、その作業が何らかの”追認”になってるってことですよね。そんななかで、日々新しいことが見えてきたり、興味が変わってきたりすると思うのですが、それを『いざ書こう!』と思うタイミングはどう決めていらっしゃるのですか?
川床:それは職業柄みたいなところがありますよね、ペーパーにする必要があるという。いつも私は、『動いたことは書く!』って宣言しています(笑)。上野さんはもっと熟考するタイプですから、フィールドワークをやっても論文はそんなに多くはないのですが、私は量産するタイプですね。やったことは全て書きます。ですから、松阪※に通って4~5年になりますが、すでに3つくらい論文があります。通っているうちにどんどん興味が変わってきますしね。
※松阪…1981年に発足した「松阪縞木綿」の手織り伝承グループ「ゆうづる会」がいかにして成り立っているのか、会則や活動内容、会員同士の会話を通じて論じている。また、存続をしていく中でさまざまに変化していくメンバーたちの考え方が、会話の内容を通じて鮮やかに描かれている。
ーそうですよね。同じフィールドでも、前と違うものがみえてきたりしますもんね。
川床:松阪の女性たちもどんどん変わってきますからね。その場に私がいても、なんでもないっていうような状況になっていますからね。例会とか総会とか、侃々諤々が起きる場に必ず私がいるという(笑)。
ーすごいですよね。(部外者がいるのに)あんなにざっくばらんに、本音が出るものなのかと思いました。一つの調査対象に通われる期間は長いのですか?
川床:そうですね。どこでも2~3年は通ったと思います。
ーその2~3年の間に一切論文を書かないわけではなく、何本か書いているのですね。
川床:そうですね。それぞれに2本論文があるんじゃないでしょうか。
ー確かに5年とか2~3年とかそこにいると、向こうの方も違和感がないというか、相手方が慣れっこになるのは良いですよね。
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