エスノメソドロジーや会話分析に関心をもってくれる人たちの裾野をどれだけ広げることができるかが大切かなと思うんです。
ー最後に、先生の研究の今後の展望を教えてください。
西阪仰氏(以下敬称略):若い時は自分の関心事に突っ走っていけたんだけれど、最近、この後自分が何を残せるのかということを考えた時に、やっぱり残せるのは人かなって思うんです。じゃあ人を残すためにはどうすれば良いかと考えると、やっぱりどういう風にそれが使えるかということと切り離しては考えにくい。そんなわけでオウム真理教の会話分析をやってみたり、山形の119番通報の分析に首を突っ込んでみたりということもやっています。昔はそれこそ役に立つかどうか分かりませんと言いながら調査協力のお願いをしていたのですが、今はむしろ積極的に(現場で活用されることを意識して)やっています。今、福島県の病院で医療従事者と来院者のみなさんのやりとりを研究させていただいています。先日も、医療従事者のみなさんに、暫定的な知見をお示ししました。医療従事者のみなさんのほうからも、『こんなことをしてもらえれば使えるかもしれない』という助言をいただいたりしています。そのようなやりとりをしながら、分析をすすめてみたりしています。
ー実務で使おうとすると「ゴミはない」といいながらも、やっぱりどこかで省く作業が結局必要ですよね。
西阪:そうですね。結局教育や、あるいは逆にそれをインストラクションとして使う時にはここまで分析しなくても良いということがでてくると思いますね。
あとは、自分の見出したものを使って自分でそれを実践していくというやり方も考えられますよね。さっきのサドナウもジャズの教師をやってるんですよ。サドナウメソッドと自分で言ってアメリカ各地でジャズピアノを教えていたようです。
ー分析をした人間が一番わかるようになるというのはあるかもしれないですね。
西阪:他には、近年特に、お医者さんは医療コミュニケーションに関心を持っていらっしゃいますね。お医者さんや医療関係のみなさんは、どのように話せば患者さんは納得してくれるのかということに関心があるようです。
ーそういう意味では、教育の現場とかお医者さんとかと、繊細なコミュニケーションが求められるところがエスノメソドロジー活用の実践の場としてあるのかもしれませんね。
西阪:こちらの知見を還元できる一つのフィールドかなと思っています。
例えば、今、福島県で内部被ばく検査に関するやりとりの研究をしています。震災当時放射線を浴びてしまったり、食物として取り込んでしまったことでの内部被ばくを心配されている方のために検査を提供している病院で、お医者さんが検査の結果を説明する場面をビデオに録らせてもらっているんです。受検者の方や家族の方々も、あるいは医療従事者の方も、いままで経験のないことに直面しています。そういうなかで、どういうふうにコミュニケーションをとっていけば良いかということについてすごく関心を持っていただいています。例えば、どういう形で質問をすればどういう形で答えが返って来やすいか、というようなことがまとまった形で言えれば良いなと思ってやっています。
ー新たに発生した相互行為について、方法論を探って役立てていくということですね。
西阪:結局は、(エスノメソドロジーや)会話分析をしない人たちがどれだけ関心を持ってもらえるかということが、人を残すということに繋がるんだと思うんです。つまり、適切な言い方かどうか分かりませんが、会話分析を「生産(作りだす)」する人が沢山出てきても供給過多になるだけなので、それを活用してくれる人たちの裾野をどれだけ広げられるかということが、会話分析の今後、あるいは会話分析の生産者を育成していくのには、やっぱり大切かなと思うんです。結局、会話分析者以外で会話分析に関心を持っていただける人がいないと、仲間内だけで論文を書いて、それだけで終わってしまうので、それではやっぱり人は育たないかなという感じですよね。
ー本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。
2014年11月13日(木)千葉大学研究室にて