01-4.デザイン思考の実現の難しさと課題

  1. そもそも「デザイン思考」とは?
  2. デザイン思考が近年の日本で注目されている背景
  3. デザイン思考の“作法”について
  4. デザイン思考の実現の難しさと課題
  5. 今後の展望

組織としてクリエイティビティを成長させていく努力をすることが大事。

ー出てきたテーマをいったんカタチ作る(プロトタイピング)意味やポイントは何ですか。

櫛勝彦氏(以下敬称略):検証というのはすごく大事で、きわめて抽象的な話(テーマ)を実際の生活現場に落とす、というのが必要なわけです。と言いながらも、精巧な設計はできないので、ある程度早い段階でカタチに、できるだけリアリティのある触れられるものに変換していくのが、次の段階に進む上では重要ですよね。


デザイン教育では、『とにかく百枚スケッチ描け!』というようなことを猛進的にやっていたんです。僕らも『なんでこんな意味ないことやるのかな』『いい考えが浮かんだら一発でデザインができるんじゃないかな』と思っていたけど、ある種、それはけっこう的を射ていて、スケッチを繰り返すことによって、どんどんどんどん本当の姿が出てくるわけです。同じようにプロトタイピングも一回だけじゃなくて何回も繰り返すことによって、本来の姿が見えてくるんだと思います。一回一回のものの精度というより、繰り返すプロセスに意味があるということです。

ーデザイン思考のプロジェクトを一貫してやるのはとても重要なことですが、一方でとても難しいことだと思います。なぜ難しいのでしょうか。

櫛:プロジェクト全体の時間は短縮されているはずですが、今までとらえてきた自分の仕事領域とは違うことをやらなければいけないので、時間がかかっているような感じはしますよね。おそらく面倒くさいというか、慣れないことをすると時間がかかるように思うのではないでしょうか。

ー部分的にこのプロセスをやる、ここはやらないというチョイスをしてしまうと全体の流れがおかしくなってしまいますよね。

櫛:だから、第三者がお手伝いをする場合は、いわゆるコンサルテーションみたいなところから始めるしかないんですよ。開発の進め方の時点から相談に乗っていかないと。部分的に切り分けされた状態で、それも、企業の今まで通りの方法の中でだと、やろうとしてることと実際とのギャップが大きくなってしまいます。だからそこはやっぱり包括的にコンサルテーションするということが非常に大事になるんじゃないかなと思います。


さっきのIDEOの話じゃないですけど、フレームに合わない議論を一生懸命してもダメで、その組織がもともと持っているフレーム自体をどうしましょうか、というところから始めないと、お互い時間がかかってしまいますよね。

ー現実に進めていくのがなかなか難しいなかで、デザイン思考が実行されていくための課題というのは何だと思いますか。

櫛:社内での説明が非常に難しいというのがあるようです。意識改革みたいなものだから、『これをやるとこういう成果が出るからやりましょう!』という説明を担当者の方が上司にしようとしても難しいんですよね。


さっき言ったみたいに、その部署で収まる話ではないので、いかに組織を越えた活動ができるキーマンみたいな人がいるか、みたいなことがすごく大事になってくるのではないでしょうか。権限が移譲された方がいれば割とスムーズにことが動きますが、現場担当の方が上司に持ちかけてもなかなかうまくいかないケースが多かったりしますしね。『これはプロセスなんだ』と説明しても、インプットとアウトプットという発想しかないわけだから。


だから、デザイン思考的なアプローチをスタートしようとしたときには、組織横串みたいな活動が歓迎される会社なのかどうかということでずいぶん違ってくるでしょうね。

また、デザイン思考のアプローチは、従来商品の改良みたいなものにはおそらく向かないでしょうね。何十年も続けている商売があって、シーズはできたけどどうやって使っていいかわからないみたいな話だとか、あるいはすごく良い商品だったのに、急激にシェアが落ちてきている、でも理由はよくわからないであるとか。


グローバル化であったり、モノのソフト化だとか、いろんなことが理由にあるわけですけど、そういった時の困っている度合いと、そのシーズをどう活かしていいのかわからない、みたいな時には、割と役に立つと思います。


調子よくいっているところで次の改良を考えるような場合には、あまり向かないでしょうね。そういう時期は、過去の資産を活かしながら、あまり大きな投資をせずにプロフィットを得られる状況だから、たぶんやらないでしょうし。

ー大きな会社になってくると想定される市場規模を求められたりしますが、今までなかったものなのでやってみないと分からない、ということもあります。そこも難しいところですよね。

櫛:大きな会社の中で下から持ち上げてこういうことをやろうとすると、ハンコの数が多いから大体うまくいかないですね。しかも社内の規定に沿った説明資料がないと、『どれだけの効果が上がるのか数字で示せ!』みたいなことが出てくるわけですしね。

ーその仕組みを変えることから入るか、傍流のところで新しいことを起こすか、なかなか難しいところですよね。

櫛:そうですね。日本企業では、こだわりの強い社員が自分たちで『こんなもの作りたい!』という確信を持ったプロジェクトがあって、それが上司の目に留まり急に商品化するみたいな、昔からある成功ストーリーみたいなものがありますよね。
そういう属人的なものとデザイン思考のアプローチはまったく正反対なんですけど、どちらかというとそういう美談的なものの方が日本の企業の中では共感されますよね。でも、それはやっぱり属人的だし、組織的にクリエイティビティを成長させていく努力をやってないということなんですよ。


組織としてのクリエイティビティをどう活かすかみたいな観点から会社のトップ層は考えないといけないわけですよね。そういう意味では「デザイン思考」の包括的に見るアプローチが必要だと思います。また、そういったものを社員が共有することが必要なんだという意識を、マネージメントレベルの教育に織り込んでいくことなどが大事なんじゃないかと思いますけどね。

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