UCI Lab.は人類学者 比嘉夏子氏と、国産タオル開発を題材にした共同研究を開始します
「タオル探求プロジェクト」では、イノベーション・エージェントの知見と人類学的知見の対話的協働によって、従来とは異なるアプローチで国産タオルの新商品開発を行います。 同時にプロセス自体の記録と振り返りも行い、後日公開していきます。
イノベーションの現場に、人類学的知見をどこまで深く実装できるのか
イノベーション・エージェントのUCI Lab.は、「生活者起点でのイノベーションの実現(User Centered Innovation)」をコンセプトに掲げ、2012年の設立以来、メーカーを中心に数多くの事業会社の新商品/サービス開発のプロジェクトを運営してきました。
人類学者の比嘉夏子氏(北陸先端科学技術大学院大学 助教)は、オセアニア島嶼社会の経済実践や日常的相互行為について継続的なフィールドワークを行いながら、同時に多数の企業とビジネスの実践におけるリサーチプロジェクトにも携わってきました。
UCI Lab.と比嘉夏子氏は、2018年のジャカルタでの調査プロジェクトを契機にこれまでにもいくつかの協働をしており、その軌跡はUCI Lab.所長の渡辺隆史と比嘉夏子氏を含む共著『地道に取り組むイノベーション-人類学者と制度経済学者がみた現場』(ナカニシヤ出版)にも詳しく記述されています。
そしてこの度、2020年12月から、新たな取り組みとして「わかること」「ユーザーに寄り添うイノベーション」とは何かについて、思考と対話を推し進める共同研究を開始します。
生活者起点のプロセスで、タオルをつくることは可能か
今回取り上げる題材は「タオル」。生活者の視点でタオルの可能性を捉えなおし、商品開発までを目指します。
おそらく誰の家にもあって、生活に密着しているタオルですが、あまりにも密着しているので、日々全く意識しない人が多いかも知れません。近年は「今治タオル」など国内産地によるブランディング活動なども注目を集めましたが、業界内では「タオルの新機能」はすでに出し尽くされた感があるようです。
今回の「タオル探求プロジェクト」では、タオル業界内での当たり前の枠から逃れ、ユーザーや生産者の現場での視点を取り入れる協働的なプロセスを通じて、新しい価値を創造すること(具体的な新商品の開発まで)を目指します。
なお、このプロジェクトは比嘉と渡辺とともに、今回の題材を提供していただいた株式会社エス・ディ・シー研究所の兼子航氏(タオル「つつまれたい」などを企画販売)も加わって研究や開発を進めていく予定です。
詳細を、プロジェクト終了後に公開します
すでにプロジェクトは、準備の段階で生産地今治へのフィールドワークなどを実施。これから生活者へのリサーチの段階へ移行していきます。
また、プロジェクトの最終成果は、開発されたタオルそのものだけでなく、その工程の詳細や得られた知見についても、終了後にひろく共有する場を設ける予定です。どうぞご期待ください。
比嘉夏子氏(人類学者)コメント
私自身、今までそれほどタオルについて考えたことはなかった。それはあまりにも日常生活に埋め込まれすぎていて、なかなか意識にのぼる機会がない。あるいはそれはあまりに人間の身体に寄り添いすぎていて、なかなか言語化される機会がない。
タオルのように、さほど伝統的でもなければそこまで革新的でもないモノの存在を位置づけていくことは案外難しく、だからこそ人類学的なアプローチとの親和性もある試みだと思っている。1枚の布と、人間の生活との関わりを、丁寧に捉えなおしてみたい。
渡辺隆史(UCI Lab. 所長)コメント
あなたはどんなタオルが好みですか?…そんな事を突然聞かれても、私も含めてほとんどの方がうまく言葉で説明できないですよね。
でも、よくよく思い出してみると、私にも棚から選びがちなタオルというのはあって、しかもそれが「一番性能の良いタオル」とは限らなかったりします。そもそもタオルの性能って何なんでしょうか。あれ?タオルってどんな風に使ってただろう…。
そんな日常の小さなところから、ユーザー起点の新しいタオルの創造を試みたいと思います。
比嘉夏子氏 プロフィール 人類学者。北陸先端科学技術大学院大学知識科学系助教,博士(人間・環境学)。学部時代から文化人類学を学び,オセアニア島嶼社会の経済実践や日常的相互行為について継続的なフィールドワークを行う。並行して企業等の各種リサーチや共同研究にも携わり,人類学的な調査手法と認識のプロセスを多様な現場に取り込むことで,よりきめ細かな他者理解の方法を模索し,多くの人びとに拓かれた社会の実現を実践的に目指す。
渡辺隆史 プロフィール User Centered INNOVATOR。UCI Lab.所長,経営修士(専門職)。学部で国際関係学を専攻し学際的なものの見方を学ぶ。株式会社ヤラカス舘(現 株式会社 YRK and)へ入社し,消費財のプロモーション企画や調査を手掛ける。また社会人学生として立命館大学大学院経営管理研究科経営管理専攻(専 門職大学院)で得た研究的な思考態度は現在にも大きな影響を与えている。UCI Lab.設立後は,ユーザーの生活と企業の技術,ビジネスと学術的知見といった相反しがちな事柄を対話的に統合していくような実践を追求している。
「タオル探求プロジェクト」研究テーマスポンサー、アドバイザー
株式会社エス・ディ・シー研究所 / 兼子 航 氏